取材・編集Premium Japan

Text by Masao Sakurai(Office Clover)
Photography by Makoto Itoh Edit by Chisa Nakajima(Premium Japan)

「食のグランヴィア」を
目指す理由(わけ)

ホテルには「総支配人」という職位がある。
いわば、ホテルの最高責任者だ。
経営全般に加え、各セクションを束ねて統率し、ホテルの顔としてVIPを接遇する。
こうした多方面に及ぶ業務を遂行する「総支配人」には、一定クラス以上のホテルの場合、宿泊もしくは営業に従事してきた人間が就くことが多い。

しかし、「ホテルグランヴィア京都」では、料理畑を歩んできた、いわば生粋の料理人が2019年から総支配人を務めている。
そのような例はほとんどなく、ある意味では異色ともいえるだろう。
佐藤総支配人が「食のホテルグランヴィア京都」を目指す理由には、そんな背景があることも事実だ。

ディレクタースーツ姿の佐藤さん

「高校生のときからレストランでアルバイトをしていました」と語る佐藤さん。隙なく着こなしたディレクタースーツが似合う。

「料理は小さい頃から好きでしたね。母親が作ってくれた弁当が気に入らなく、自分で作り直すような子どもでした」
「ホテルグランヴィア京都」の総支配人、佐藤伸二さんは語り始めた。ゆくゆくは教育者になるつもりで、進学校にも通っていた佐藤さんだったが、料理人の道を選んだのは、幼いころからの料理好きが嵩じてのことだった。 「幸運なことに、『クラブ関西』に務めることできたのです。そこでフランス料理の基礎を学ぶことができました」
「クラブ関西」とは、関西で活躍する経済人や文化人を会員として昭和23年に設立され、現在でも存在するクラブ組織だ。企業のトップ同士の情報交換の場でもあり、週に1度は食事会が開催される。舌の肥えた人を相手とする現場を、いきなり経験することとなった。

クラブ関西に16年間務めた後、「ホテルグランヴィア大阪」の前身である「大阪ターミナルホテル」に移った。しかし、原価率の考え方の違いや、宴会料理の多さという、ホテル特有の環境にショックを受けた。大量のフォン・ド・ボーやチキングリルを作る単調な作業の日々。それが半年続き、もう辞めようかなと迷っていた矢先、フランス料理のシェフへの配置転換があった。 そして始めたのは、食材探しの旅だった。
「当時の総料理長が食材を重視し、背中を押してくれたこともあり、日本全国を歩きました。会社の理解もあり、現金での買い入れも可能となりました。その積み重ねで方々に信用ができ、食材の質をかなりあげることができました」

佐藤さんのフランス料理に対する想い

ゲストの多くは京都府外から訪れる。
「ゲストの皆さまに、料理からも『京都に来たんだな』と感じていただきたいと思います。ただ、あくまでも王道からはずれないことが大切」と語る佐藤さん。

「ホテルグランヴィア大阪の料理はおいしい」。
そんな評判が立ち始め、その中心を担っていた佐藤さんは、入社後5年で総料理長に抜擢された。そしてさまざまな改革を実行した。まずは料理人の意識改革。読書の大切さを説き、休憩時間には本を読む習慣を植え付けた。 さらにシェフを養成する教育制度を社内で整えた。加えて取り組んだのがコンクールへの出場だった。外へ出て名前を売る。コンクールの上位にいつも『グランヴィア大阪』がいる。それを目指し、事実その通りとなった。
その秘訣には、現在にも通じる佐藤さんのフランス料理に対する信念がある。

「ピュアなソースと適格な火入れ、そして味は王道。
コンクールに限らず、フランス料理の本質はそれだと思っています。
王道といっても、それは時代とともに変化していきます。停滞する王道ではなく、進化する王道です。
クラシックを十分に理解しつつ、火入れの方法も進化させ、特に盛り付けなどは新しく斬新に。常に伝統と革新のせめぎ合い。
それは料理に限らず、どの分野でもあてはまることなのではないでしょうか」 コンクール入賞常連という当初の目的を果たし、それと同時に「ホテルグランヴィア大阪」のフランス料理も格段にレベルアップしていった。

「ホテルグランヴィア京都」の二代目総料理長に佐藤さんが就任したのは2004年。
「ホテルグランヴィア大阪」に13年間籍を置いた後だった。
「ホテルグランヴィア京都」はフランス料理「コトシエール」、鉄板焼「五山望」、日本料理「浮橋」、オールデイダイニング「ルタン」などの直営ダイニングを持ち、 多い時には170人を超える料理スタッフを擁する大型ホテルである。大阪での実績を認められての就任だった。 「味噌、醤油、酢をはじめ京都中の食材屋さんを廻りました。
古都京都で料理を提供するというのはどういうことかを一から考え、
フランス料理にどのように京都の食材を取り入れるかということもあれこれチャレンジしました。
現在の『コトシエール』でも、京都らしさを感じていただける食材や調味料を使っています」

料理イメージ

メインダイニング「コトシエール」のシグニチャー料理。
高知県宿毛からトロ箱で旬の魚が届く。魚の種類に応じて、グリル、ポワレ、コンフイなどにし、アラで作ったサフラン風味のスープドポワゾンをかけていただく。
箱を開けて初めてわかる魚種に応じて臨機応変に調理する。素材を大切に扱いながらも、シェフの応用力の見せどころでもある。

料理イメージ

ブルターニュ産の鳩とフォワグラのキャベツ包み、トリュフ添え。
キャベツの周囲を、薄いパンチェッタ(ベーコンの一種)で巻き、味に深みを出す。
ソースは鳩の骨の髄などから取る。ゼラチン質となるのを避け、あくまで軽くさらりとしたソースに。キャベツはちりめんキャベツを使用。

仕入れの見直し、料理人の意識改革、教育制度の整備、コンクール出場。
大阪と同様の手法を京都でも実践しつつ、新たにチャレンジしたことがあった。 それが料理人の海外研修だった。フランスに半年間、その間に2軒のレストランで研修を積む、という制度を確立させた。
コロナ禍のためにここ3年ほどはこの制度が中断しているが、それまでは毎年送り出し、貴重な経験を積んだ料理人は、京都をはじめ、大阪、岡山、広島にあるホテルグランヴィアの主力シェフとして活躍している。

厨房にて佐藤さんと柏木さん

現在では厨房に入ることが少ない佐藤さんだが、一旦入ると、料理人としての視線になる。今日は宴会用の厨房で、総料理長の柏木さん(右)とメニューの確認。

2022年、「ホテルグランヴィア京都」の総料理長に、佐藤さんの片腕として大阪時代から共に働いてきたフランス料理のシェフ、柏木健一さんが就任した。総料理長として、今でも毎日、直営レストランのどこかの厨房に立つという。柏木さんは語る。 「宴会場が多くなりがちですが、毎日どこかの厨房には立つようにしています。
そして、フランス料理だけでなく、和食やカフェにいたるまですべての料理に対し、そこの料理長とコミュニケーションを密に取り、時には『こうした方がよいのでは』と意見も言います。
また、大規模だからこそ、たとえば『今日は少し寒いからスープは熱めに』というような細かな指示を心がけています。
そしてコンクール対策も怠りなく、資料集めのチーム、現場担当のチームと、いくつものプロジェクトチームを作り、調理場全体でサポートしていくようにしています。スタッフが働く意欲を高める環境造り、それが総料理長の仕事でもあります」

現場を柏木さんに託した佐藤さんは、総支配人としてもう少し大きな目でホテルを捉えるようになった。
「大阪は地元のお客様が多いのですが、京都は関東からのお客様が多いのが特徴です。その方々に、料理も含めホテルとして何を打ち出していけばよいか、そんなことを考えています」 そんな佐藤さんの口からは、何度も「良いホテル」という言葉が聞かれた。料理好きの青年がホテルダイニングの道に進み、最初は「良い料理を作りたい」と考え、それが年を経て「良いホテルを作りたい」へと変貌していった。

最後に、少し意地悪な質問を投げかけてみた。
「現場に立ち、料理人として料理を作りたいとは思いませんか?」と。 「料理を作ることは楽しい。それは充分に分かってはいます。
でも、私が厨房に入ると、皆が迷惑しますからね……。できる限り厨房には入らないようにしています」
ディレクタースーツの佐藤さんは穏やかに笑う。 じつは、佐藤さんと柏木さんからお話をおうかがいしたのは、撮影したシグニチャー料理を織り込んだコースを
「コトシエール」でいただきながらのことだった。
食事が終わり、厨房から出てきた「コトシエール」シェフの河本英樹さんと佐藤さん柏木さんとの間で、料理の内容に関するごく短いやりとりがあった。 「スープドポワゾンはさらっとしすぎていたかもしれない」
「あのパンチェッタはもう少し肉の香りを纏わせた方がよいかもな」 普通の人にはとうてい分からない微細な味の感覚。
それは3人が料理人だからこそのやりとりであり、料理哲学が脈々と受け継がれていく、
まさに「食のホテルグランヴィア京都」を象徴するようなシーンでもあった。

JR京都駅直結のホテルとして1997年にオープンした「ホテルグランヴィア京都」は、開業当初からダイニングの充実度で、京都のみならず全国的に注目を集めている。
その「ホテルグランヴィア京都」のメインダイニングが「コトシエール」。「コト」は「古都」、「シエール」はフランス語で青空を意味する。「ビュー&ダイニング」という名が冠されていることが物語るように、最上階の15階窓からは京都の南西側、遠くは大阪の市街地ビル群まで見渡すことができる絶景のフランス料理レストランだ。 シェフは河本英樹さん。30代で「コトシエール」のシェフに就任した新進気鋭の料理人である。

シェフ河本さん

河本英樹シェフは2014年には28歳の若さで、休職してフランスへ料理留学。
1年間に4軒の星付きレストランで研鑽を重ねた。

コトシエールの内観

15階に位置する「コトシエール」の眺望は素晴らしく、晴れた日にはアベノハルカスが見えることも。

料理イメージ

高知県産のスジアラに鯖のへしこソース。与謝野ホップと未熟苺、オキサリスを添えて。

「完璧な火入れができました」 満足気な笑みを浮かべ、シェフ自らが魚料理をサーブしてくれた。高知県の沖合で一本釣りされた4キログラムのスジアラは、船上で神経締めがなされ、厨房で8日間寝かせたあとでも、弾けるような身の締まり具合だ。切り身の表面がうっすらと虹色に輝く。 フランス語で「キュイッソン・ナクレ」と呼ばれる、低温でゆっくりとした火入れの調理法で、虹色は瑞々しく旨味が保たれたまま火が入った証である。ほろりと崩れる身を噛みしめる。ふくよかな白身の味わいに、鯖のへしこが入った滋味深いソースがよく合う。柑橘系の酸味の代わりとした未熟苺と添えたオキサリスが、爽やかな酸味をもたらしてくれる、「コトシエール」渾身の一品だ。

料理イメージ

黒毛和牛フィレ「京の肉」のポワレ。
北山杉の器は「コトシエール」開店以来から使われ続けてきたもの。

この日のコースの肉料理は、黒毛和牛「京の肉」のポワレ。
分厚い杉板の器は北山杉だ。 「『コトシエール』の開店以来使っている杉板です。
この器を作ってから随分時間が経っているのに、まだ杉の薫香がし、焼いた牛肉の香りにその薫香が加わります。
京都は圧倒的に牛肉、その中でもフィレ肉を良しとする土地です。
そんな土地柄のところでお出しする牛肉ですから、質にはかなり気を使い、「京の肉」という銘柄牛を使います」

魚と肉のシグニチャー料理2品にも、「ホテルグランヴィア京都」の、そして河本シェフの料理哲学が込められている。

料理イメージ

高知の海から届いた魚の一皿。
そのアラで作ったサフラン風味のスープドポワソンとともに。

高知の宿毛漁港から箱買いで仕入れる魚は、今が旬のものがほとんど。しかも厨房で蓋を開けて初めて魚種が判明する。 「その当日、皆で何を作ろうかあれこれ相談して決めていきます。
地元でしか消費されない魚が、このような一品になるんだと、漁港の方々が一番喜んでくれる。
僕自身もそれが一番嬉しいことです」

料理イメージ

ブルターニュ産ピジョンとフォワグラのキャベツ包み。トリュフの香り。

「鳩の方は、まさに王道の料理。
佐藤総支配人の意見を聞きながら10回以上試作しました。
鳩の肉やキャベツへの火の入れ方など細かなアドバイスをいただき、とても勉強になりました。
印象に残ったのは、『ソースに旨味を出し過ぎるな』という一言でした。
この料理は、ソースで食べるものではなく、素材の旨味で食べる料理だということなのです」

ワイン会イメージ

ホテルのダイニングだからこそ堪能できるサービスが心地よい。

「コトシエール」では偶数月の20日は「シェフズディナー」、奇数月の第2木曜日は「ワイン会」を開催。
「シェフズディナー」であれば河本シェフが客席まで出向いて料理の説明をし、「ワイン会」であればソムリエが全面に出て料理とのペアリングを取り仕切る。そうすることにより、ゲストの意見をよりダイレクトに料理や飲み物に反映させることができる。

「ル・タン」内観

さまざまな料理を楽しむことができる「ル・タン」のバイキング。
料理にマッチするワインやカクテルなどまで料金に含まれるるため、大人気。

「ホテルグランヴィア京都」には、「コトシエール」のほか、鉄板焼の「五山望」、日本料理の「浮橋」、オールデイダイニング「ル・タン」、バー「オルビット」などの直営レストランがある。 とりわけ「ル・タン」のバイキングは充実。ディナータイムには寿司カウンターが設けられ、本日のお勧めの産直寿司ネタを、寿司職人が目の前で握るサービスや、特設のドリンクコーナでは、ホテル内のレストランで活躍するソムリエやバーテンダーが、料理にマッチしたお酒を選んでくれる。

和食「浮橋」料理と日本酒

和食「浮橋」は会席料理のイメージが強いが、実は「おばんざい」と共に日本酒を楽しめるエリアも存在。
おばんざいで一献傾けてから旅立つという使い方ができるのも、京都駅直結だからこそ。

また、「浮橋」では会席料理の他に、夕食限定の「おばんざい」メニューもあり、新幹線乗車前に軽くつまむことができ、旅行客にも人気だ。

メインバー「オルビット」内観

メインバー「オルビット」で活躍するバーテンダーが、レストランでも活躍する。

2019年に総支配人に就任した佐藤さんは、総料理長であった経験を活かしながら、ホテルの料飲部門でさまざまな改革を打ち出している。 「バーテンダーが作る飲物を料理とマッチングさせる、そんな取り組みを始めようとしています。ソムリエがワインを提供するだけでなく、バーテンダーがレストランに入り、料理に合わせたお酒を作る、そんなシーンがあってもよいと思うのです。良いバーテンダーがたくさんいるのに、昨今の傾向としてバーテンダーが働く場所が少なくなってきています。 良いバーがあり、優れたバーテンダーがいる。それが、良いホテルの条件です。それを守るためにもバーテンダーがレストランに参加する機会を作ることが大切だと思います。
料理人、サービス、ソムリエ、バーテンダー、すべてが一体とならないと良いホテル、良いダイニングは生まれません」

時間があれば、佐藤さんはおいしいものを食べ歩き、話題の場所に出かける。
何が人の興味を引き、何が主流となっていくかを見極めるためだ。コロナ禍前には、パリに幾度も足を運んだ。 「パリのラグジュアリーホテルが大好きです。たとえば「ホテル・ル・ブリストル・パリ」。本当に素晴らしいなと思います。何もかもが一流。
そうしたパリのホテルは、館内に三ツ星クラスのレストランを招致しているところが主流です。
つまり、ダイニングをとても重視しているということです。 この流れは、日本にもすでにやってきています。
だからこそダイニングをいままで以上に充実させなければなりません」

厨房にて佐藤さんと柏木さん

この日は宴会場の厨房に。スタッフに気軽に声をかけながら、料理のひとつひとつを丹念に見て回った。

やがて来るラグジュアリーホテルの流れ。それはダイニングの充実にほかならない。
その流れを「ホテルグランヴィア京都」はいち早くキャッチして改革を進めている。
ホテル内のダイニング、どこを訪れても佐藤さんの食への情熱が息づく。
これからも「食のグランヴィア」を目指し、口福を届けてくれるにちがいない。

レストランをお選びください

レストランをお選びください
  • 鉄板焼 五山望
  • ビュー&ダイニング コトシエール
  • ゲストハウス 塩小路楽粋
  • 和食 浮橋
  • 京懐石 美濃吉 竹茂楼
  • カフェレストラン ル・タン
  • 天婦羅処 京林泉
  • 中国料理 六本木樓外樓

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