ペストリー&ベーカリーショップ ル・タン

ベーカリーシェフが生み出すル・タンショップの新たな名物 特別賞受賞に輝いた、果実味あふれるレーズンパンが出来るまで

厳選された素材を用いて職人が丁寧に作り上げたスイーツやパンを提供する[ホテルグランヴィア京都]のペストリー&ベーカリーショップ『ル・タン』。ロビーフロアに位置し、京都観光のお土産やギフト、暮らしを彩るスイーツやパンまで、ホテルメイドの上質な味わいを気軽に購入することができます。ホテル館内のパンを製造するベーカリーのシェフを率いるのは、製パンのプロフェッショナルを対象に、カリフォルニア・レーズンを使った新製品開発コンテストで3度の受賞という偉業を果たした松木崇至。今回はベーカリーシェフ 松木に、コンテスト受賞までの道のりや、受賞作を『ル・タンショップ』で商品化した新たな名物「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」のこだわりと魅力について話を聞きました。

【Profile】
ベーカリーシェフ 松木 崇至

2004年に神戸に拠点を置く大手ベーカリー企業へ入社。パン職人として研鑽を積む。
2022年にホテルグランヴィア京都へ入社し、2023年よりベーカリーシェフとして製パン部門を率いる。

こんがりと焼かれた生地の切れ目から、レーズンをふんだんに含んだピンク色の生地があらわれ、見た目にも斬新なレーズンパン「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」。2025年6月に東京で開催された「第33回カリフォルニア・レーズン ベーカリー新製品開発コンテスト」で特別賞を受賞した一品です。同コンテストは、濃厚な甘みと柔らかな口当たりが特徴のカリフォルニア・レーズンを使った、新製品の開発とその商品化を目的に実施されています。今回は日本全国から計185作品の応募があり、ベーカリーシェフ 松木は同コンテスト史上2人目となる、3度目の受賞を果たしました。
「過去に受賞経験のある参加者は、一般の参加者より厳しい審査基準が設けられてしまうので、“必ず勝ち抜く”という強い想いで挑みました」。
過去には、本みりんで煮込んだレーズンと酒粕クリームチーズ、ゼリーでコーティングしたレーズンに卵黄と牛乳で作るアングレーズソースとクリームチーズなど、斬新な素材の組み合わせとアイデアで賞を獲得してきました。今回のコンテストで特にこだわったのは、“印象的な香りと見た目”と語ります。その言葉通り、焼きたての「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」を目の前にすると、カリフォルニア・レーズンの芳醇な香りと、生地の鮮やかなピンク色に惹き込まれます。
 
フォルムはシンプルな楕円型に。「インパクトと斬新さを意識したデザインにし、模様で奥行きを作り差別化を図りました」。
「レシピを見た段階で簡単に味が想像できるものでは勝てない」とベーカリーシェフ 松木は話します。「レーズンがおいしいことは当然ながら、目新しい素材の組み合わせ方や製法で、いかに興味関心を持たせるか。今回はレーズンと相性の良いベリーを合わせ、塩味で甘みを引き立てる“味の相対効果”を狙い、イタリアの魚醤“コラトゥーラ”を隠し味に使用しました」。
また、デザインにもオリジナリティを追求。「カリフォルニア・レーズンの故郷であるカリフォルニアの海からインスピレーションを受けて、波や風を彷彿とさせる有機的な模様を施しました。クープ(切れ目)からのぞく生地は、ベリーを印象づけられるよう、鮮やかなピンク色に仕上げています」と、視覚的にもひと味違う工夫を盛り込んでいます。

【大会当日の様子】
最終審査会場では制限時間内に作品を製作。段取りの良さや清掃をこまめに行っているかなど、細部まで審査されます。

レシピ開発にかける想いやこだわりをプレゼンテーションするベーカリーシェフ 松木。

ファイナリスト計20名が集まった最終審査会場では、2日間(計7時間)で「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」を製作。製作意図や特長などについてのプレゼンテーションも行いました。「今回のレシピでは、生地の下準備に重点を置き、長時間熟成によって小麦の旨みを最大限に引き出すというホテルでの経験で得たノウハウをコンテストで活かすことができました。実際の現場を想定し作業効率も意識したことで、2日目はゆとりをもって臨めたと思います」と、映えある特別賞を受賞できたのは、ホテルベーカリーならではの丁寧な仕込みと、作業効率の良いレシピも大きな要因になっています。
 

ひたして寝かせたコラトゥーラレーズンはつやつや。みずみずしく口当たりのいいカリフォルニア・レーズンは、サラダやスープ、スイーツなどさまざまな料理と相性のよい食材。
「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」は、2025年10月より『ル・タン』にて販売を開始しました。その製造現場をのぞいてみると、細部にまでこだわりと手間が詰まっていることが伝わってきます。

「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」の味の決め手は、2種の異なる下味をつけたレーズンです。まずは赤ワインにブランデー、蜂蜜、コラトゥーラ(イタリアの魚醤)を加え、フランベして素材の旨みを凝縮させた液にカリフォルニア・レーズンを漬け込み、2日以上寝かせてコラトゥーラ・レーズンを仕込みます。こうすることで、魚醤の塩気がレーズンの旨みを引き立て、しっとりとジューシーな口当たりになるからです。「レシピの肝となるコラトゥーラは、一般的にはパンやスイーツには使われない調味料。調味料の選び方も審査のポイントになるため、理想的な味わいを醸すものに出会うまで、半年ほどの時間を要しました」と、ベーカリーシェフ 松木は語ります。
さらに、レモン果汁と塩を加えた液で2日以上漬け込んだソルト・レーズンを仕込みます。塩味で甘みを引き立てたコラトゥーラ・レーズンと、爽やかな塩味をほのかに感じるソルト・レーズンを合わせることで、味に深みと奥行きが生まれるのです。

魅力的な香りと見た目を持つ「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」ですが、驚くほどにみずみずしく柔らかな生地の口当たりも特徴です。その秘訣は生地の加水率にあります。加水率とは、生地に使う粉の総重量を100%としたときの、粉量に対する水分量のこと。一般的な食パンや菓子パンの加水率に比べて、水分量を約1.5倍に高めた生地を採用。72時間かけてじっくりと発酵させることで、しっとりと伸びの良い生地に仕上がります。
この生地をベースに、甘みと酸味のあるラズベリーピューレとストロベリーの濃縮果汁、鮮やかな色を生み出すビーツパウダー、チョコチップを加えて捏ねたものに、コラトゥーラ・レーズンをたっぷりとのせて分割し、発酵させます。

これまで数々のレーズンパンを作ってきたベーカリーシェフ 松木のなかで、「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」は、シェフ史上最大のレーズン含有量の商品です。生地よりもレーズンが多い贅沢な比率。コラトゥーラ・レーズンがたっぷり入った生地にソルト・レーズンを加え、楕円形に成型します。とろりと手から流れるほど柔らかい生地のため、具材が飛び出てしまうという問題がありましたが、プレーンの生地で包み込むことで解決。なめらかな表面となり、波や風を彷彿とさせる有機的な模様の表現が可能となります。

表面の模様は、プラスチック製の板に、シェフがフリーハンドで描いた模様を切り抜いたステンシルシートを使用。ココアパウダーと小麦をつかって2色の波と風の模様を表現しています。「シートがずれてしまうと2色がはっきりと出ないので、この工程が一番神経を使いますね」と、模様をつける表情は真剣そのものです。

パンを成型したら仕上げにクープ(切れ目)を入れ、いよいよオーブンへ。高温だとせっかくの色が抜けてしまい、しっとりとした口当たりも損なわれてしまうので、220~230度で温度をこまめに変えながら焼き上げることで、生地の旨みとジューシーなレーズンの食感、しっとりとした生地の口溶けが実現されます。こうしてようやく完成した「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」は、焼き上がりの芳香な香りがより一層食欲をそそります。
フルーツの酸味や小麦の甘みが絶妙に調和し、しっとりとした口あたりに魅了される「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」。レギュラーサイズ1,200円、ハーフサイズ700円。
ご自宅でのペアリングにはオリーブオイルがおすすめ。赤ワインを合わせるとより芳醇に、白ワインを合わせるとさっぱりとした味わいが楽しめる。
そのまま食べてもおいしい「シャルマン・ルージュ・レザン(魅惑の赤ぶどう)」ですが、シェフのおすすめは5mm〜1cmほどに薄くスライスし、甘めのクリームチーズと合わせて、甘みと塩味の絶妙なハーモニーをお楽しみいただく食べ方です。軽くトーストすることでカリッと香ばしくベリーの香りが増します。お客様からは「みずみずしい口当たりと華やかな香りに感動した!」「レーズンが苦手だったけれど、おいしく食べられた」と、嬉しいお声も続々と届き、リピート購入をしてくださるファンも増えてきました。ベーカリーシェフ 松木は「現在は、数量限定で販売していますが、ゆくゆくは今より数量を増やし、よりたくさんの方にこのパンを知ってもらって楽しんでいただけたらと思っています。いずれは“京都に来たら、『ル・タンショップ』でレーズンパンを買って帰ろう”と言っていただけるほどの名物になれば」と展望を語ります。

  
広大な敷地に広がるレーズン畑。毎年、1月に枝を剪定、春には若芽を出し、やがて開花。真夏の太陽のもとで果実を実らせ、収穫に至るまでに3年以上を要します。年間を通じ丁寧かつ衛生面に特化する事で、上質なレーズンになります。
目標だった3冠を達成し、副賞として与えられた「カリフォルニア州フレズノへの研修旅行」へ。向かったのは、カリフォルニア州サン・ホアキン・ヴァレー。ぶどうの成育と理想的な気象条件に恵まれ、日本で消費されるレーズンの約8~9割が生産されています。
「20代の頃、はじめてコンテストを目指したきっかけは、この研修旅行がとても魅力的に感じたことです。必死に技術を磨いたとしても、外に出ないと視野が狭くなってしまうと思っていて。世界に出て、自分の力で知見を広めたくて挑戦を始めました」と、現地視察の重要さに熱い想いを抱いています。「実際に生産地に足を運んで、普段目にする乾燥した状態ではない、みずみずしく実ったレーズンを見て感動した」と言います。愛情を込めて育てる生産者さんとの交流を通し、よりおいしい食材の魅力を引き出したいと、より一層意欲が増す研修旅行となりました。
「もともと、ものづくりが好きで、いつも頭の中では“この素材をこう組み合わせたら良さそうだな”とアイデアを巡らせています」。
悲願の3度の受賞を果たし、研修旅行を経てさらにパン作りへの創作意欲が高まるベーカリーシェフ松木は、今後の目標をこう語ります。「職人として現場の製造に徹しながら、さらなる高みを目指したいです。製パン部門の中には、他のパンコンテストで入賞したスタッフがいるなど、高い技術をもったスタッフがそろっています。今後も挑戦できる環境づくりを心掛け、ホテルの製パンを担っていく若手スタッフの育成にも尽力していくつもりです」。そして、「パンは小麦やバター、牛乳などの素材があって、はじめて職人がつくれるもの。一つひとつの素材を無駄にせず、素材本来の風味、作り手の想いを大切に、生産者と消費者をつなぐパンを作っていきたいです」。
コンテストや海外研修という貴重な経験を通して、技術や知識、人脈、柔軟な発想を持ち合わせたベーカリーシェフ 松木は、次にどんな驚きと感動を与えるパンを作るのか。ペストリー&ベーカリーショップ『ル・タン』は、これからもお客様の記憶に残る商品をお届けしていきます。